東方便り❺

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6BM8と聞いてにっことする古老は多いに違いない。3極5極の双極管である。この真空管は誠に便利で使い勝手がよく2W程度ならシングルでアンプも作製可能である。どういうわけか忘れたが私は中学時代から真空管をいじるのがすきだった、多分好きな音楽をラジオ(5級スーパー)で聞いていて音が物足らなかったに違いない。当時大須には中野無線や加藤無線、ラジオパーツのジャンク屋が点在していて日曜日ともなれば雑誌『初歩のラジオ』を片手にいそいそと出かけ部品を買いあさった。

あるとき楽譜を求めてヤマハに行った。これが良くなかった。ヤマハにステレオが置いてあるのを知らずそのフローアに足を踏み入れた瞬間ビックリ仰天・・・・・ナニコレ、ジムラン(当時はJBLとは言わない)パラゴン?家具みたいでステレオなのにスピーカーが一個?価格169万円?昭和40年代の話である、一般的なサラリーマンの給料を私は知らないが正に高嶺の花、さらにはマッキントシュ275そんなのがゴロゴロ置いてあった。

もちろん試聴させてもらった、店員は明らかに面倒くさそうにこんな中学生に何がわかるか!
の態度だったが兎に角聞かせてもらった音は覚えていないが壮大なスケールで鳴っていた。
家に帰って自慢の6BM8のアンプの電源をいれる気になれずこれを機に自作はきっぱり止めた。
思えば私のオーディオ狂の原点がここにある最近は自慢のステレオに灯を入れることはあまりなく
もっぱらネットラジオをヘッドホーンで寝転がって楽しんでいる。

先日ショパンの『雨だれ』が流れていた。(24前奏曲15番D♭major)この曲は通奏低音のように静かに暗く『ラ』の音が休みもなく一定のリズムで鳴っている曲が終わりに近づき突如として2オクターブ高いラにピッチを上げる。実はこの曲の聴き所はここで、これをfで鳴らすかpにするかで曲の趣は一変する。凡庸なピアニストほどfでならす、ぶち壊しである。

大年増ジョルジュサンドに身も心も蝕まれたショパンの嘆き倦怠感または、どうもがいてもこの蟻地獄から抜けだせないことへの慟哭、そしてとうとう自分の才能が枯れ尽きるのを自覚した瞬間のように私には聞こえる。  Y.O

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